「野球版ウルトラマン」とも言えるようなオーラが漂う。大谷翔平の新天地であるエンゼルスでひときわ輝きを放つのが、マイク・トラウト外野手だ。現役メジャーNo. 1野手と言われ、2012年に新人王、14年と16年にア・リーグでMVPを獲得しているスーパースターだ。まだ26歳と若いが、21歳から6年連続でオールスターにも出場し、すでに数々のタイトルを獲得。メジャーの野手の指標となるOPS(出塁率+長打力)でも2度、リーグ最高率をマークしている。
メジャーでも二刀流に挑戦し、日米から注目を集める大谷にとっても特別な存在だ。昨年12月9日のエンゼルス入団会見の時には、背番号17についての質問に「本当は(トラウトの背番号)27番にしたいという思いがあったんですが、埋まっていたので17にしました」とジョークを交え会見場で笑いを誘った。冒頭の挨拶でも「今日マイク・トラウト選手の結婚式がありますので、結婚おめでとうございます」と話し、メジャー最高選手を意識したコメントを残している。
日本が誇る二刀流プレーヤーから注目されるトラウトとはどんな人なのか−。まずは外見から。アリゾナ州でのキャンプ初日、日米メディアからインタビューを受けた。髪型は両サイドが綺麗にカットされたモヒカンで、まるでウルトラマンのよう。体型もがっちりとしていて、無駄のない筋肉質な体をしている。ベテラン選手のような貫禄はないが、何かファンを惹きつけるような雰囲気を持っているように感じた。
内面はどうだろうか。簡単に言うと、「お茶目なナイスガイ」だ。練習中、こんなシーンがあった。トラウトがフィールドでキャッチボール中、「Watch out(危ない)!!」と、フェンス越しに観戦していたファンに向けて叫んだ。ボールが逸れてファンに当たりそうになったのかと思いきや、実際には、トラウトが楽々キャッチしていた。見ていたファンは一瞬、驚いたようだったが、お茶目に笑うトラウトと一緒になって楽しんでいた。ちょっとしたところでのファンサービスも旺盛のようだ。
そんなトラウトは、子供達にとってのスーパーヒーローだ。2015年の夏、8歳の少年トーマス君がエンゼルスタジアムで行われた試合を訪れ、トラウトと対面した。トーマス君はトラウトの出身地であるニュージャージー州、ミルビル市に住んでおり、トラウトの大ファン。だが、彼は眼振という目の病気を患っていた。視界がぼやけ、クリアに物が見えない病気だ。「みんなと同じ生活をさせたい」と、母親はカリフォルニア州でトーマス君の目の手術を行うことを決めた。しかし、現地で3週間の滞在が必要で、手術費用などの資金がなかったため、地元で募金活動を行っていた。
活動の知らせを聞いたトラウトの母親デビーさんは、すぐにエンゼルスとトラウトに連絡。トーマス君が手術でカリフォルニア州を訪れるタイミングで、試合に招待することを企画した。トラウトのユニフォームを着て、リストバンドをはめて臨んだ手術は3時間半に及んだが、無事に成功。そして、手術を受けてから8日後、トーマス君のエンゼルスタジアムでの野球観戦は実現した。憧れのトラウトとの対面も叶った。ぼやけず、はっきりと見えるトラウト。握手もし、スーパーヒーローを目の前にして会話もできた。トラウトはそんなトーマス君にバットを差し伸べ、丁寧にスイングの仕方を教えた。試合後、トーマス君から感謝の手紙を受けとり、「ありがとう。胸が熱くなったよ」と言葉をかけ、ハグをした。はっきりと目が見えるようになったトーマス君にとって、トラウトとの交流は人生で忘れられない一日になったはずだ。
きっと、トラウトというスーパースターがいたから、8歳の少年は病気と闘い、長時間の手術にも耐えられたのだろう。個人的な意見だが、憧れの存在や頼もしい仲間がいれば、人は困難を乗り越えられるものだと思う。大谷のメジャーでの二刀流挑戦も簡単なことではない。それでも、トラウトはこう話した。「僕らが彼を手助けしながら、良きチームメートとしてやっていきたいと思う」。一緒になって戦ってくれる若きチームリーダーは、大谷にとって頼もしい存在になることだろう。
26歳にして数々のタイトルを獲得しているトラウトは、難しいことにチャレンジするときに大切なことについて「まず大事なのは、ネガティブにならずに、ポジティブでいること。周りの人たちが助けてくれるということを、理解することだと思う」と説いた。同じチームメートには、アルバート・プホルスやジャスティン・アップトンなど経験豊富な選手たちもいる。頼りになる存在というのは、人が前向きに進んでいくため、成功するための手助けになると、トラウトは信じている。
今年のメジャーで注目度No.1といっても過言ではない大谷の加入によって、プレーオフ進出を狙える位置にいると予想されるエンゼルス。チームの中心選手として、また大谷の二刀流成功の立役者として、トラウトが鍵を握る。守っては快足を飛ばしてホームランキャッチもできる、打っては30本以上本塁打を打てるパワーを持ち、なんでも出来るスーパーアスリート。それでいて、モヒカンヘアーのちょっぴりお茶目なナイスガイ。エンゼルスのウルトラマンに今後も大注目だ。