恥ずかしながら、大学時代の後輩とのこんな会話からアーロン・ジャッジの存在を知った。「これから、ダルビッシュとマー君が投げ合うから要チェックだね」。日本人投手の先発対決が実現した昨年6月23日、ヤンキース対レンジャーズの試合の時のことだった。後輩から「ダル V.S. ジャッジの対決、楽しみですね」と返事がきた。ここで、私の天然ボケが炸裂する。「ダルとジャッジの対決? はて、ダルビッシュは最近、メジャーの審判と相性でも悪いのかな」。ジャッジ=審判という思い込み。できれば公表したくない恥ずかしい勘違いだったが、この時初めて、「ヤンキースのアーロン・ジャッジ」の注目度の高さを知った。
とんでもない怪物ルーキーだった。早速、映像で見てみると、なんと軽々とホームランを打つことか。右に、左に、ミートして打球が上がればホームランといった印象だ。飛距離は軽く140メートルを超す。昨年6月11日のボルティモア・オリオールズ戦では、推定飛距離150メートルの特大弾を左中間スタンドに叩き込んだ。これには実況も「なんてホームラン!モンスターショットだ!」と大興奮だった。ボールとバットのインパクト音が他の選手とは違う。テニスのショットのような重低音かつ、乾いた音が球場に響き渡る。自分が打っているわけではないのに、何か見ていて気持ちがいい。
そして何より、体がでかい。身長200センチ、体重127キロ。もし目の前に現れたら間違いなく圧倒されてしまうだろう。ヤンキースのレジェンド、デレク・ジーターが2014年に引退してはや3年、どでかいニューヒーローがニューヨークに誕生した訳だ。しかも、打順はジーターと同じ2番。200センチのホームランバッターが2番に起用されるとは、対戦する投手も気が気でないだろう。メジャーでは2番バッターに強打者を置くのは珍しくはなく、日本野球でも近年、定着しつつある戦法。それでも、さすが「2番最強説」発祥の地、アメリカ。本場は違うなと感じた。
まだ25歳の大砲が、ヤンキース新時代の中心選手となるのは間違いないだろう。2016年にメジャーデビューを果たし、初打席で初本塁打をマーク。ホームラン打者らしい華々しいスタートを切ると、2017年、数々の記録を打ち立てた。レギュラーシーズン前半戦を終える前に、30本塁打を放ち、ヤンキースの新人本塁打記録を更新。シーズン52本塁打で、マーク・マグワイヤの49本(1987年)を超え、シーズン新人最多本塁打記録を塗り替えた。ちなみに208三振も新人記録を更新。当たればホームランと言わんばかりの豪快さがまた、スカッと気持ちがいい。
ホームランだけでなく、右翼の守備でもあっと驚くプレーを見せる。2メートルの高身長を生かし、何度もホームラン性の大きな打球をフェンス際でキャッチした。ポストシーズンでも攻守で大活躍。アストロズとのア・リーグ優勝決定シリーズでは、最終的に敗れたものの7試合で3本塁打7打点と存在感を見せていた。
こういったスター選手になりうる逸材とは、試合の空気を変えることができると個人的には思う。昨年のリーグ優勝決定シリーズ、1勝2敗で迎えた第4戦。6回まで4点リードを許す劣勢だった。ところが7回、ジャッジの「モンスターショット」がバックスクリーンに突き刺さった。追撃の狼煙を上げてチームを勢いづけると、8回には同点タイムリーを放った。ヤンキースはこの試合を制し、2勝2敗のタイに持ち込む。翌日も、ジャッジのタイムリー二塁打などで主導権を握り、王手をかけた。その後、連敗しワールドシリーズ進出は逃したが、世界一となったアストロズを大いに苦しめた。それも、劣勢の展開からジャッジが特大ホームランを打ったことで、「いける」というムードがチームに漂っていたように思う。
それにしても、来年のヤンキース打線は一体どうなってしまうのか。これはポジティブな期待を込めてのものだ。ジャッジを筆頭に昨年のチーム本塁打数は、メジャー30球団で1位の241本。ただでさえ破壊力抜群の打線に、昨季ナ・リーグで本塁打、打点部門の2冠王となったジアンカルロ・スタントンがマーリンズから加わる。単純計算すれば、241本に59本を足して、300本塁打打線が完成する。昨季、日本のプロ野球で12球団最多の本塁打数はソフトバンクの164本。試合数が20試合近く少ないため、単純比較はできないが、それを考慮しても凄まじい打線だ。ジャッジの「モンスターショット」にあやかり、「モンスター打線」とでも命名したい。
そんなヤンキースの新重量打線の中で今季、ジャッジがどんな活躍を見せられるか。日米メディアは大谷翔平の二刀流でのメジャー挑戦に注目が集まっているが、その大谷との直接対決も4月下旬にアナハイムで行われる3連戦で実現するかもしれない。さらには、大谷と田中将大の投げ合いの可能性すらある。日本人的には一番見たい先発対決だが、まずは「大谷 V.S. ジャッジ」に注目だ。今度はアンパイア(審判)との相性?とは思わない。160キロ投手と52発男のガチンコ対決。1球1球見逃さず、結果に一喜一憂したい。