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<世界一になった4番〜カルロス・コレア〜>

ヒューストン・アストロズに「かっこよすぎる4番」がいる。メジャーデビューしてまだ3年。プエルトリコ出身の23歳、カルロス・コレアだ。2017年のワールドシリーズを制覇し、全試合で4番・遊撃手として活躍。7試合の激戦を制し、歓喜の輪の中心にいた。その直後だった。FOXスポーツのインタビュー中、ガールフレンドのダニエラ・ロドリゲスさんにプロポーズ。グラウンドにひざまづいて、ポケットに隠していた指輪を差し出した。「結婚してくれますか」。世界一達成の瞬間という状況もドラマチックだが、直球で投げかけたプロポーズの言葉も男らしくてかっこいい。

初見で衝撃を受けたのは、2017年3月に行われた第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の時だった。プエルトリコ代表の3番打者の構えにピンときた。「雰囲気が違う。誰だ彼は」とテレビの前で独り言を呟いた。コレアだった。スラッと背が高く、スタイルの良い右打者。タイプ的には巨人の坂本を一回り大きくし、さらに筋肉質にした感じだろうか。威圧感もある。「打ちそうだな」。根拠はなかったが、直感は当たった。WBC第1ラウンドから決勝ラウンドまでの打撃成績は8試合で打率3割7分5厘で3本塁打9打点。強烈なインパクトを残した。

これをきっかけに一気にコレアの虜になってしまったが、生き方も骨太でかっこいい。生まれはプエルトリコの小さな町、サンタ・イサベル。貧しい家庭環境で育ち、石材で作られた家に住んでいた。建設業を行なっていた父の仕事を幼少期から手伝う傍ら、毎日、マンツーマンで野球の練習に励んできた。メジャーリーガーになりたいと父に告げたのは5歳の時。米スポーツ専門局ESPNインタビューによると、「小さな街で育ったからこそ、夢は大きく。そして家族の生活をより良いものにするために、努力しないといけない」と常に思っていたそうだ。父からは、夢を叶えるには「ものすごく厳しい道になる。他の子達が寝ている間も、練習しないといけない」と言われ、睡眠時間を削って野球の練習に打ち込んだという。父との野球の練習が始まるのは、夜10時半か11時から。そして朝6時には起床して学校に通っていた。

その後、コレアはプエルトリコ・ベースボールアカデミー・アンド・ハイスクールに入学。将来、メジャーリーグや米国の大学を目指す、文武両道で野球もハイレベルな生徒が集まる学校だ。今までよりも1時間早い朝5時に起き、学校へ通い、夕方6時頃に帰宅。夕食と勉強を済ませ、夜遅くまで野球の練習をしていた。母からは「明日も学校なんだから、しっかり休まないと」と何度も心配の電話を受けたが、「後もう少し」と練習を続けていたという。

プエルトリコの現地の高校では、メジャーリーグスカウトの目に留まることは珍しく、その機会も少ない。 それでも、コレアの並外れた身体能力と素質は光り、2012年、MLBドラフトの全体1位でヒューストン・アストロズから1巡目指名を受けた。MLBドラフトの全体1位指名は南米国籍の出身では、ヤンキースで長年活躍した通算696本塁打のアレックス・ロドリゲス(ドミニカ共和国)、かつてドジャースで不動の4番として活躍したエイドリアン・ゴンザレス(メキシコ)に次ぐ3人目。プエルトリコ出身の選手では史上初のことだった。

ドラフト1位指名の日からちょうど3年後の2015年6月8日、メジャーデビューを果たすと、同月、打率2割8分7厘、5本塁打15打点の成績を残して月間最優秀新人に選ばれる。デビュー戦からしばらくは下位打線だったものの、すぐに中軸として活躍。この年、99試合の出場で打率2割7分8厘、22本塁打68打点と結果を残した。この時まだ、21歳だった。

貧しい地域で育ちながらも、夢の舞台へ這い上がり、トントン拍子にメジャーでのキャリアを積み上げていった。だが、かっこいいストーリーばかりではない。デビューを飾った2015年、チームはプレーオフ進出を果たしたが、ロイヤルズとのア・リーグ地区シリーズでコレアは痛恨のミスを犯した。2勝1敗でリーグ優勝決定シリーズ進出へ大手をかけた4戦目。3番遊撃手でスタメン出場し、4打数4安打4打点と活躍。7回まで4点のリードを奪った。しかし、8回にロイヤルズに追い上げられ、2点差。さらに無死満塁から、相手打者の打球が遊撃手コレアの守備範囲へ飛んだ。イージーなバウンドだったが、これを後逸。2走者を返すエラーで同点とされ、この回、逆転を許した。結局、この試合を落としたアストロズは、翌日の試合も敗れ、地区シリーズで敗退となった。

第4戦の試合後、コレアはすべてのメディアの取材に丁寧に対応した。「自分は完璧じゃない。だからミスをした。言い訳はしない」と、潔く受け答えた。アストロズのヒンチ監督はこう振り返る。「あの瞬間が彼にとって、(メジャーという舞台の)本当の到達点になったはずだ」。華々しいメジャーデビューに満足しないで欲しい、大舞台で失敗したという経験を糧にまた上を目指して欲しい、そういう親心を込めたメッセージだったのだろう。

この年、コレアはア・リーグの新人王に選ばれた。貧困率46%(米国で最も貧困率の高い州の約2倍)の祖国プエルトリコに、明るい話題をもたらした。オフシーズン、コレアは地元プエルトリコの野球場で毎晩、練習を行う。そこには何百人ものファン、子供達が練習を観に訪れるという。貧困地域から誕生したスーパーヒーローを一目見ようと。

2017年、ワールドシリーズを制し、23歳で早くも世界一の遊撃手になった。「もっともっと、上を目指す。僕は止まらない」とコレアは言う。次なる夢はメジャー最高の栄誉、「殿堂入り」だ。歴代のスーパースターには、どことなく「かっこよさ」が感じられる。長嶋茂雄、王貞治、松井秀喜、イチローにしてもなにか、仕草、立ち居振る舞いに風格が漂う。コレアにも、同じような雰囲気を感じる。これからますます「かっこよく」なると思うと、目が離せない。

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