ジェイク・アリエッタ〜シカゴを去った男〜
<p>移籍の真意ははっきりしないが、野球選手として転機の決断だったのだろう。シーズンオフのFA選手で目玉の一人だったジェイク・アリエッタ投手が、シカゴ・カブスからフィラデルフィア・フィリーズに移籍した。契約は3年で約80億円。2015年にメジャーの最優秀投手賞であるサイ・ヤング賞に輝き、2016年に108年ぶりとなるワールドシリーズ制覇に貢献したシカゴの宝が、チームを去った。
<p>3年80億円。1年でいえば、約26.7億円だ。日本のプロ野球の感覚からすれば、「なんて額だ!」と思えるが、ダルビッシュは6年139億円(1年約23億)、田中将大はヤンキース移籍当時、7年165億円(1年約24億)だから、メジャーで一線級の投手というのは、それぐらいの契約を勝ち取れるものだと改めて思った。
<p>アリエッタは、独特のクロスステップでナチュラルシュートをする150キロ超の直球と、縦スライダー、カーブが武器で、三振率が高いとされている投手だ。2015年と2016年、2年連続でノーヒットノーランを達成したのは記憶に新しい。また、シカゴのファンを最も虜にしたのは、2016年のワールドシリーズでの2勝だろう。1世紀以上も待ったワールドシリーズ制覇。2勝を挙げた価値というのは、とてつもなく大きかったはず。それだけに、アリエッタのフィリーズ移籍はシカゴファンにとって、残念なことだろう。
<p>地元紙のシカゴ・トリビューン紙の記者が以下のように、アリエッタがシカゴを去ることを表現している。「アリエッタがカブスとサインしなかったことにがっかりしているなら、アリエッタを非難せよ。結局はアリエッタが、カブスを去ることを選んだのだから」と、書き出しで痛烈に報道している。なぜ、このように言っているのか。アリエッタの代理人は、敏腕として知られるスコット・ボラス氏だ。過去、日本人では松坂大輔がレッドソックスとの6年、約60億円の契約を結んだ時に、代理人を務めたのが同氏。アメリカでもバリー・ボンズやアレックス・ロドリゲスなど名だたるレジェンドプレーヤーを手がけてきた代理人だ。p>
<p>記事によると、代理人というのは選手のために働いているのであって、決定権の責任があるのは常に依頼人なのだ、という。「もし、アリエッタが代理人に全てを託していたとしても、ファイナルアンサーの電話がかかり、選択肢はアリエッタにある。そして、今回のカブスに関しては、アリエッタが破談と言った」と同記者は訴えている。ただ、同記者はアリエッタがお金に貪欲な選手と言っている訳ではない。米メディアによると、実際にカブスがオファーした契約額は、4年110億円と報道されており、年俸は27.5億円。フィリーズの3年契約より長く、年俸も高いものだった。一般的に、選手生命に限りがある野球選手にとっては、複数年契約というのは有難い話。それが長ければ長いほど、当該選手には?おいしい?契約内容のはずだ。それでも、アリエッタは契約年数が短く、年俸も低いフィリーズとの契約を選んだ。つまり、移籍理由はお金や契約年数ではなく、それ以外の要素がアリエッタには重要だったのだろう。
<p>カブスのユニフォームの青ではなく、フィリーズの赤が好きなのか、東海岸の都市フィラデルフィアが気に入っているのか、それとも、プレーオフに進出できる可能性のあるチームが良かったのか、真意は定かではない。ちなみに、スポーツ専門局ESPNは最近、「フィリーズが今年、ワイルドカード争いに加わることは疑いようがない」と報道している。アリエッタの加入で先発投手陣に厚みが出たことも要因の一つだという。
<p>メジャーではトレード移籍やFA移籍が日本プロ野球に比べると盛んに行われ、大物選手の所属するチームが変わることも多い。移籍理由は人それぞれだ。昨年末、デトロイト・タイガースからエンゼルスにトレードで移籍してきたイアン・キンズラー内野手は「勝てるチームだと思ったから、ここに来た」と話している。大谷翔平の加入でエンゼルスのプレーオフ進出可能性が高まったのも理由の一つだという。移籍理由は一体、なんなのだろうか、という話題でいえば、大谷翔平も日米メディア、ファンから「なぜエンゼルス」との疑問が絶えない。契約金が一番高かった球団ではないため、アリエッタと同じように、お金の問題ではなかったと考えられる。今でも真意は分からないが、野球選手としてチームに感じる可能性や何かが、移籍球団を選ぶきっかけになったのだろう。
<p>こういう話題になるのは、一流選手の証であるとも言える。実際、前述したシカゴの記者は、記事の後半でアリエッタの功績を讃えている。昨年、「球速が落ちていたのにも関わらず、ピッチングスタイルを変えて、見事に対応した」、「アリエッタは歴史を変えた。長らくチャンピオンになれなかった地元球団のために、忘れらない素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた」などと、2016年ワールドシリーズ優勝の立役者に感謝するように称賛している。愛情があったからこそ、シカゴを去ったのが、残念だったのだろう。そう思われるのも、スター選手の宿命。シカゴのファンも心の底ではおそらく、「フィリーズ・アリエッタ」を応援しているはずだ。
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