ベンチでもペロッ、打席でもペロッ、走っててもペロッ、ペロッと舌を出す。世界一アストロズの不動の3番・二塁手、ホセ・アルトゥーベの癖が気になって仕方ない。MLB現役最小の身長167センチ。筋肉質でいかつくて、体がでっかいイメージのメジャーリーガーと比べれば、リスみたいでちっちゃくてかわいらしい。
4番打者カルロス・コレアと共に、アストロズ球団初の世界一に貢献した立役者の1人であるアルトゥーベ。レギュラーシーズンで打率3割4分6厘の成績を残し、2年連続の首位打者を獲得。ポストシーズンでも大活躍し、ワールドシリーズでは打席に入るたびに「MVP!MVP!」と観客からコールを受けるほどの人気者だ。ワールドシリーズのMVPは1番打者のジョージ・スプリンガーに譲ったが、2017年のア・リーグMVPに選ばれた。
遅ればせながら、彼に注目し始めたのは昨年10月中旬、田中将大を擁するヤンキースが相手となったリーグ優勝決定シリーズからだ。4年連続シーズン200安打を放ったニュースなど、なんとなく存在は知っていたが、試合中継などで見る機会はあまりなかった。疾風の如くダイヤモンドを駆け回る俊足、小柄でも本塁打を打てる長打力。アルトゥーベのプレーに惹きつけられたのはもちろんだが、TV画面に出てくると、「ペロッ」と舌を出す。癖なのだろうなと見ていたが、これまた頻度が高く、気になり出すと止まらなくなった。
VTRなどでよく見てみると、まずは打席でペロッ。打った直後にもう一度、ベンチに戻ってきてもまたペロッと舌を出している。さらには、全速力で三塁からホームベースへ駆け抜ける時でさえ、豪快に舌を出しながら走っている。これには米国記者も驚きのツイート。「彼は走っている時でさえ舌を出していた!きっと、勝利を味わいたかったのだろう」と、動画付きでコメントした。「Altuve Tongue」とGoogle検索すると、多くのアングルから「舌出しアルトゥーベ」が堪能できる。
直接、本人に聞いてみないと分からないことではあるが、舌出しというのは「精神的安定、リラックス、力みをとる」などの効果が医学的に証明されているという。確かに、アルトゥーベの打撃をよく観察すると、ボールを打つ瞬間のインパクトに、100%の力を伝えるようなスイングをしている。だからこそ、小柄でも2シーズン連続で24本塁打を打てるのだろう。実はこの舌出し、あるトップアスリートにもある癖だったそうだ。NBAのレジェンド的存在、マイケル・ジョーダンだ。彼も、シュートやダンクをする時、自然に舌を出してしまう癖があったという。「はて、日本でも誰か、舌を出しながらプレーしていた野球選手がいたような...」と記憶を辿っていくと、思い出した。巨人に在籍していたお騒がせ外国人投手、ガルベスだ。審判にボールを投げつけるなど、よく大乱闘を巻き起こしていた助っ人も舌を出しながら投げていた。 話をアルトゥーベに戻すと、舌を出すだけでなく、ちょっとした仕草がなんとも可愛らしい。たまに、爪を噛んだり、ベンチにある飲料用のカップを並べて遊んでいたりする。純粋な野球少年がそのままメジャーリーガーになったような風貌だ。個人的には、「そんな小さな野球少年でも、メジャーリーグでMVPを取れるほどの選手になれる」、そういう夢を与えてくれる大変貴重な存在だと思っている。
米メディアの統計によると、メジャーリーガーの近年の平均身長は約187センチで、ナショナル・リーグが誕生した1870年代に比べると、10センチ以上も高くなっている。体の大きな選手が多くなっているというトレンドに逆らうように、平均身長より20センチ低いアルトゥーベが全米で注目されている。そんな時代を逆流するような、先入観にとらわれないアスリートは見ていて面白い。
チームメートで4番打者のカルロス・コレアと同じように、南米ベネズエラの貧しい村で育った。幼少期に父と二人で練習していたグラウンドは雑草が生い茂り、とても野球ができるような環境ではなく、空き地のような場所。手伝ってくれる人もいなかったため、父がボールを投げ、アルトゥーベが打ち、転がったボールを父が取りに行き、また投げて打つ。恵まれた環境での練習とは程遠い、コツコツ地道な練習だったようだ。また、友人たちと野球で遊ぶ時は、ペットボトルや瓶の蓋をボールとして投げ、バットは、細長い釣竿のような木だった。ボトルの蓋は小さくてよく曲がるため、当てるのが難しく、打撃練習には効果的だったという。
そうやって、ベネスエラからやってきた野球少年はメジャーリーグを代表する強打者となった。史上5人目の4年連続シーズン200安打達成、ホームから一塁までの到達タイムで史上最速の3.3秒(足の速い打者で3秒台後半)を記録、786試合でメジャー通算1000本安打に到達(イチローに次ぐ2番目の早さで達成)するなど、みるみるうちに全米ファン注目の選手になった。
それでも、「こんな小さな体では限界がある」、「スピードはあるかもしれないけど、パワーでは勝てないだろう」などといった意見を持っている人もいるだろう。そんな時は得意の舌出しでペロッとしてもらおう。固定観念に「あっかんべ〜」ならぬ、「あるとぅーべ〜」で、常識を覆すような活躍に今後も期待したい。